博物館登録制度
国立と独立行政法人立を除く
あらゆる法人の施設が
登録できるようになりました。
あわせて、博物館活動の改善・
向上につながる
仕組みへとリニューアルしました。
①設置主体の限定の撤廃
いまから約70年前、博物館法が制定された当時は、全国の博物館の総数は200館程度に過ぎず、博物館の設置者は地方公共団体や財団法人、宗教法人が多いという状況でした。
博物館に法的な位置づけを与える登録制度も、当時の状況に合わせて、その対象となる博物館を設置主体によって限定していました。
しかし現代では、地方独立行政法人やNPO法人など、かつては存在しなかった類型の法人が博物館を設置するようになり、また、企業や学校法人が設置する博物館においても、より市民に開かれた、公益的な活動が幅広く行われています。
こうした近年の状況を踏まえ、新しい博物館登録制度では、国と独立行政法人を除く、あらゆる法人が設置する博物館が登録を受けることができるようになりました。
②登録審査基準の見直し
これまでの博物館法に定められていた登録基準は、専門的職員としての学芸員がいるか、博物館資料を持っているか、土地や建物があるか、博物館の開館日数が150日以上かどうかといった、外形的な要件のみを判断するものでした。
それらの要件は、博物館としての活動の在り方を問うものではなかったために、必ずしも博物館活動の質を保証したり、その向上を促すものではありませんでした。
新しい登録制度では、その審査基準として、資料を取り扱う体制や、学芸員を含む職員の配置、施設・設備について新しい基準を定め、外形的な要素にとどまらず、活動の実質的な要素についても確認していくこととなります。
また、この改正に伴い、登録審査に際して学識経験者から意見を聞く機会を設けたり、登録を受ける博物館の活動に関して専門的な知見からのアドバイスを受けられる仕組みとしました。
③活動の改善・向上の仕組みの導入
博物館登録制度では、登録博物館は、登録要件に関する事項に変更があった場合には、登録を受けた自治体に届け出ることとなっています。
これまでの制度では、この届出のほか、適宜、博物館から運営状況を知らせる仕組みが担保されておらず、そのため登録時から博物館の活動や経営の状況が大きく変化しても、自治体の側で把握されない実態がありました。
登録制度が、博物館の活動や経営の改善・向上に資するものにするためには、各館園の活動状況に応じ、博物館が適切な指導や助言を受けられる仕組みを整える必要があります。
こうした観点から、新しい登録制度では、登録博物館は定期的に自治体に運営状況を報告することとしています。文化庁は、この仕組みを活かしつつ、博物館が求めに応じて指導・助言が受けられる環境を、自治体や博物館関係者と協力しながら作っていきたいと考えています。
④「博物館に相当する施設」の
指定制度の見直し
旧法の第29条(第5章 雑則(博物館に相当する施設))で規定されていた、いわゆる「博物館相当施設」については、今回の改正法では、第31条(第5章 博物館に相当する施設)で「指定施設」として新たに規定されました。
新たな制度で指定施設の対象となる博物館施設は、国と独立行政法人が設置する施設と、それ以外のあらゆる施設です(個人立も含む。)。国と独立行政法人が設置する施設は文部科学大臣が、その他の都道府県と指定都市に所在する施設はそれぞれの教育委員会が指定します。
指定の基準については、登録基準に準じて定めることとしています。今後、地域で博物館活動を行なっている施設の中で、学芸員の配置が難しいなど、何らかの事情で登録の要件を満たさない施設については、広く「博物館に相当する施設」として指定を受けることで、博物館事業の充実が図られ、さらに登録博物館への要件整備を進めることが期待されます。
法律の目的
法制定以来の社会教育法の精神に
基づくことに加え、
文化芸術基本法の精神にも基づくことを
新たに定めます。
昭和24(1949)年制定の社会教育法では、博物館を「社会教育のための機関」として定めており、昭和26(1951)年制定の博物館法も、社会教育法の精神に基づいて、博物館の設置運営について定めるものとされています。
そして法律の目的としては、博物館の発展を図ることによって、「国民の教育、学術」とともに、「文化」の発展に寄与することを掲げてきました。
平成29(2018)年に、文化芸術施策の総合的な推進を図るために制定された、文化芸術基本法の中では、博物館の充実は「文化芸術に関する基本的な施策」の一つとして位置づけられ、博物館の活動が、文化芸術により生み出された価値の継承・発展や、新たな文化芸術の創造において役割を果たし得ることが示されています。
このように、これまでも博物館に期待されてきた文化の発展に資する役割が、近年制定された文化芸術基本法の中で改めて明確にされていることを踏まえて、今回の改正では、博物館法が、社会教育法に加えて文化芸術基本法の精神にも基づくことを定めています。
博物館の事業
博物館の事業として、
博物館資料のデジタルアーカイブの
作成と公開を
新たに位置付けます。
また、博物館の職員の養成・研修も
事業の一つに位置づけます。
①デジタルアーカイブの作成と公開
博物館が持つ資料をデジタル化して保存するデジタルアーカイブの作成は、利用者がインターネットを通じて資料の情報へアクセスするため、あるいはインターネットを通じて博物館が自館園の魅力を発信していくための基盤となる取組です。
これまで、博物館法の中で列挙された博物館の事業の中には、このデジタルアーカイブの作成の取組は、明確には位置づけられていませんでした。
しかしながら、通信環境が整い、モバイル端末が広く普及してきたことで、メディアとしてのインターネットの重要性は非常に大きくなっています。また、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの博物館が閉館を余儀なくされる状況が広がった中で、特にインターネットを利用した博物館活動の意義が再認識されています。
新たな制度では、デジタルアーカイブの作成と公開を、博物館が行う事業の一つとして新たに明確に位置付けて、取組を推進していきます。
②学芸員等の人材の養成・研修
博物館法では、博物館の専門的職員として「学芸員を置く」ことを定めていますが、博物館の現場には、博物館経営をマネジメントする館長をはじめ、博物館での教育普及を担当するエデュケーターや、資料の保存管理・修復をするコンサベーター、広報・宣伝やファンドレイジングを担当する職員など、資料についての専門性に限らず、博物館に必要な役割を果たす幅広い知識を持った多様な人材が求められるようになってきています。
こうした人材については、時代の変化や、館の状況に応じて確保することが求められるため、博物館として必要とする専門性を持つ人を新たに迎えたり、博物館職員の資質を高め、新しい知識を得るための継続的な機会を確保したりする必要があります。
これまでも、博物館法では、文化庁及び都道府県が学芸員等に向けて研修を実施することとしていましたが、新しい制度では、そうした研修にとどまらず、館園自らが行う人材の養成・研修制度の確立を、博物館が行い得る事業の一つに位置付けることで、博物館が主体的に実施する人材養成の取組を推進します。
博物館の連携
博物館同士のネットワークや、
博物館が教育、まちづくり、
観光、福祉といった
様々な分野の主体と
連携することによって、
博物館が地域で多様な価値を
発揮することを促します。
①博物館の地域の多様な
主体との連携
博物館は、資料の収集・保存や展示・教育、研究活動を通じて、博物館資料を未来に残していくことだけにとどまらず、現代社会をとりまく様々な事柄とつながり、社会課題の解決や地域の活性化といった多岐にわたるポテンシャルを発揮するものであるということが、博物館に関わる多くの人々の間で共有されてきています。
例えば、平成30(2019)年に日本で初めての開催となった国際博物館会議(ICOM)京都大会では「文化をつなぐミュージアム(Museums as cultural hubs)」という理念の徹底が採択されました。
新しい制度では、これからの博物館の役割として、教育や文化の域を超えて、まちづくり、観光、福祉、国際交流といったさまざまな分野との連携による地域社会への貢献が期待されることについて、博物館の現場や博物館に関わる人々が意識して博物館活動に取り組めるように、登録博物館はこうした連携に努めるものと定めています。
②博物館同士の連携
社会の課題解決への貢献といった役割に加えて、デジタル化や災害対応といった、博物館の事業や運営を取り巻く新たな課題が明らかになっています。
しかしながら、館長、学芸員含めてスタッフの人員が限られるような、比較的規模の小さな博物館では、こうした種々の課題に対応するための専門性やノウハウを持った人材を新たに確保することは容易でなく、まして、日々の多様な業務を限られた人員で行う中で、新たな課題に取り組んでいくことは困難です。
全国の博物館が、時代の要請や環境の変化に取り残されることなく発展していくためには、博物館が互いのノウハウやリソースを共有し合うネットワークを形成することで、小規模な館でも効率的・効果的に新たな課題に対応することができる環境を作っていくことが求められます。
新しい制度では、登録博物館が互いの連携や指定施設との連携に努めるものと定めることで、こうしたネットワークづくりを促進します。
③博物館に相当する施設
(指定施設)の連携
新たな登録制度の中で、登録博物館の地域の多様な主体との連携や、博物館同士の連携を促していくのと合わせて、新たな指定制度で「博物館に相当する施設」として指定を受けた指定施設についても、多様な主体との連携や、指定施設同士や登録博物館との間の連携を促します。
また、国が指定を行う対象である、国や独立行政法人が設置する博物館には、東京国立博物館や国立科学博物館など、全国の博物館の中でも体制や設備が充実しており、資料の貸し出しや人材の育成などの面で、中核的な役割を果たしている館があります。
国が指定するこうした指定施設には、自らのリソースを活用した他館園の活動への協力が期待されますので、新たな指定制度では、ナショナル・センターとして全国の博物館への支援等の役割を「努力義務」として位置付け、博物館全体の充実を図ることが期待されています。
学芸員補の資格
博物館の専門的職員である
学芸員を補佐する
「学芸員補」について、
一定の専門性が担保されるように
資格要件を改めます。
博物館には、学芸員の仕事を補佐する職員として「学芸員補」を置くことができるとされています。
これまで、この学芸員補になるための資格の要件は「大学に入学できる者」、すなわち高等学校等を卒業している者であれば誰でも博物館で「学芸員補」として働くことができるということになっていました。
博物館法の制定当時、高校への進学率が4割程度でしたが、現代においては高校への進学率は98%を超えています。
一方で、博物館に求められる役割の多様化に伴い、博物館の専門的職員である学芸員に求められる業務も多様化・高度化している中で、学芸員を補佐する立場にある学芸員補にも一定の専門的な知識や経験が必要だと考えられます。
新たな制度では、これから学芸員補になる方には、必要な専門性をもって博物館で働いていただくため、資格要件を博物館に関する科目を履修して短期大学を卒業した方と、それと同等の学力・経験を有する方とすることとなりました。
国と都道府県による研修
これまで法律上は
学芸員と学芸員補に限られていた、
国と都道府県が行う研修の対象に、
館長やその他の博物館の職員を
追加します。
これまでも、博物館法では、国及び都道府県が、博物館職員の資質の向上に資するために学芸員と学芸員補に対する研修を実施することとしていましたが、新しい制度では、館長と事務職員を含めた所属職員も研修の対象として加えることで、多様な人材が博物館で活躍する環境を整えるための法整備を行いました。
すでに文化庁では、館長や教育普及担当など、学芸員と学芸員補に限らない職員への研修を実施してきましたが、新たに明確に法律に位置付けることで、一層こうした取組を推進します。
法改正のプロセス
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博物館法制定
博物館の登録制度と学芸員資格を位置づけ
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博物館法の一部改正(単独改正)
学芸員資格制度の改正とともに「博物館に相当する施設」を本則に位置づけ
※この改正以外にも、昭和27年から令和元年までの間に、
社会教育法等の関係法令の改正に伴う小規模な法改正が約20回にわたり行われている
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これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議報告
「新しい時代の博物館制度の在り方について」
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「社会教育法の一部を改正する法律案」に対する
参議院文教科学委員会での附帯決議登録制度の見直しの必要性を指摘
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10月
文部科学省設置法改正博物館法制度の所管を文化庁に移管し博物館関係の制度・施策を一元化
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9月
国際博物館会議(ICOM)京都大会11月
文化審議会の下に博物館部会を設置博物館を取り巻く課題について恒常的に審議する場が初めて設置
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2月
博物館部会の下に
「法制度の在り方に関するワーキンググループ」を設置7月
博物館部会における審議経過報告
「博物館法制度の今後の在り方について(審議経過報告)」8月
文部科学大臣からの諮問
「これからの時代にふさわしい博物館制度の在り方について」12月
文化審議会答申「博物館法制度の今後の在り方について(答申)」
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2月
「博物館法の一部を改正する法律案」閣議決定3月
衆議院本会議で賛成多数で可決・衆議院文部科学委員会附帯決議4月
参議院本会議で賛成多数で可決・成立・
参議院文教科学委員会附帯決議昭和30年(1955年)以来67年振りの単独改正
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4月
「博物館法の一部を改正する法律」施行