博物館には、宇宙や地球、
生き物たちの姿、人類の歴史や文化、
多様な芸術など私たちのくらしを取り巻く
あらゆる「お宝」があふれています。

博物館は、さまざまな人々が集まり、
学び、楽しみ、考え、
未来とつながる発見と創造の場です。

誰もが驚きと感動の中で
新しい世界への扉を開くことができます。

さあ、博物館の扉を開き、
知的冒険の旅に出ましょう!

①博物館ってなに?

大まかにいえば、博物館とは「資料を集めて保管し、調査研究して資料の価値を調べ、
その成果を展示やいろいろな方法で発信し、
すべての人々に学びや楽しみを提供する機関」であると言えます。
博物館の定義についてはいくつかあります。
代表的なものは「博物館法」「ICOM(アイコム・国際博物館会議)」
「UNESCO(ユネスコ・国際連合教育科学文化機関)」などに明記されています。

博物館法

博物館とは,歴史,芸術,民俗,産業,自然科学等に関する資料を収集し,保管(育成を含む.以下同じ)し,展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーション等に資するために必要な事業を行い,併せてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関 (後略)。(昭和26(1951)年制定、令和4(2022)年改正)

ICOM

博物館は、社会に奉仕する非営利の常設機関であり、有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈し展示する。一般に公開された、誰もが利用できる包摂的な博物館は、多様性と持続可能性を促進する。倫理的かつ専門性をもって、コミュニティの参加とともにミュージアムは機能し、コミュニケーションを図り、教育、楽しみ、考察と知識の共有のための様々な体験を提供する。
(2022年8月制定。ICOM日本委員会HPより日本語訳(仮訳))

UNESCO

社会とその発展に奉仕する非営利の恒久的な施設で、公衆に開かれており、教育と研究と娯楽を目的として人類と環境に関する有形無形の遺産を収集し、保存し、調査し、伝達し、展示するもの。
(2015年 UNESCO 「ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性と社会における役割に関する勧告」における定義 )

このように博物館は、地球と人類社会の発展のために、
すべての人々に開かれた、学びと楽しみと、
そして未来を考えるための機関として重要な役目を果たしています。

②どんな博物館があるの?

(博物館の種類、設置者)

ひと口に博物館と言っても、その種類はさまざまです。
対象とする資料や分野で見ると、
総合博物館、歴史博物館、美術博物館、科学博物館、
動物園、水族館、植物園、動植物園、
野外博物館(社会教育調査における分類)などに
分けることができます。

博物館

総合博物館

地域の自然環境、歴史、人々のくらしや美術など、地域を丸ごと理解できる博物館。

歴史博物館

歴史をテーマに、古代から現代までの地域の移り変わりを紹介する博物館。郷土資料館、民俗館、文学館などの多くも歴史博物館の仲間です。

美術博物館

絵画、工芸、彫刻から漫画やアニメも含めた美術品や芸術作品を中心とする博物館。一人の芸術家の作品やアトリエを博物館にした記念館や、企業の創業者のコレクションを中心とした美術館など多様な種類があります。

科学博物館

宇宙や天文、地球の環境や自然、生物から理工や物理など科学を中心とする博物館。中心とする分野によって自然史博物館や科学館、天文館やプラネタリウムなどに区別されることもあります。

動物園

生きた動物を中心とする博物館。

水族館

生きた水生動物を中心とする博物館。

植物園

生きた植物を中心とする博物館。

動植物園

動物園と植物園の両方を中心とする博物館。

野外博物館

歴史的建造物、伝統的建築。

動物園や水族館、植物園は博物館ではないと
思っている人もいるかもしれません。
例えば動物園では、生きた動物を集めて、
その生態や飼育方法について研究し、
みなさんが見られるように展示します。
このように博物館には実にさまざまな種類があります。
また、博物館の設置者もさまざまで、国をはじめ、都道府県や市町村、
公益法人や宗教法人、企業、そして個人など、
それぞれが多様で特色ある活動を行っています。
ぜひ、興味ある博物館を見つけて訪ねてください。
各分野の博物館には全国的な組織もあります。
また地域ごとに博物館を紹介するネットワークもあります。

③博物館はいくつあるの?

(社会教育調査データ、総数、館種、
設置者、登録館・指定施設の数)

3年に1度実施される文部科学省の社会教育調査によると、
日本には5,700以上の博物館があるとされています。
②でご紹介したように、こんなに多様な博物館が
たくさんある国は世界でも珍しく、
日本は世界的にも博物館大国と言えるかもしれません。
一方で、日本の博物館を、博物館法を中心とする制度の面から見てみると
博物館法で規定される登録博物館と指定施設(旧博物館相当施設)は、
5,700館のうちおよそ1,300館、
全体の約2割にすぎません(それ以外の博物館は社会教育調査上では
「博物館類似施設」とされます)。

今後、日本の博物館を充実させるためには、
法律が適用される博物館の数を増やし、
それぞれの博物館の活動を充実させることが必要です。

種類別博物館数 (令和3年度文部科学省社会教育調査中間報告)

種類別博物館数(令和3年度文部科学省社会教育調査中間報告)

④日本の博物館の実状は?

(博物館総合調査データ、入館者数、
職員数 など)

日本にある多様な博物館がどのような状況で
運営しているのかを調べるために、
日本博物館協会は、約5年ごとに
「日本の博物館総合調査」を実施しています。
そこからは、年間の入館者が200万人を超え、
職員が100人以上もいる大きな規模の博物館から
職員数人で頑張る小さな博物館まで、
さまざまな環境で活動を行う
博物館の姿が見えてきます。
一方で、調査データの数値にみる
「博物館の典型的な姿」からは、
博物館が置かれた課題や実状も確認できます。
この表は、令和元年度の調査から見えてくる
日本の博物館の典型的な姿を
最も回答数の多い中央値を用いて示したものです。
日本の博物館の多くが、
少ない人数の職員で運営されている
小規模な施設であることがわかります。

日本の博物館の典型的な姿 参考資料:令和元年度 日本の博物館総合調査研究報告書
日本博物館協会)

日本の博物館の典型的な姿(参考資料:令和元年度 日本の博物館総合調査研究報告書 日本博物館協会)

⑤博物館では
どんな仕事をしているの?

(収集・保管、調査研究、展示、
教育普及 他)

収集・保管

未来の人々に受け継ぐ大切な資料を集めて安全な環境で保管するのは、博物館の最も重要な仕事のひとつです。集める資料は、分野によって、歴史や美術、考古や自然、そして生きた生物まで様々ですが、いずれも未来に受け継げるように整理され、資料の性質に合わせて劣化しないように収蔵庫で大切に保管されます。また必要に応じて、修理や修復が行われます。

収集・保管

調査研究

博物館が集めた資料は、保管するだけでなく活用することも大切です。そのためには、何を集めるのかを決め、集めた資料にどんな価値があり、どんな情報を持っているのかを調べる必要があります。そのための重要な仕事が調査研究です。しっかりした調査と研究がなされて初めて資料は輝きを放ち、見る人に感動を与えることができるのです。また、市民とともに調査や研究を進める博物館もあります。博物館資料の価値は、みなで作るものでもあるのです。

調査研究

展示・教育

調査研究を経て、それぞれの価値や情報を与えられた資料は、さまざまな方法で社会に発信されていきます。その代表的な方法が「展示」です。展示には、常設展示や企画展・特別展などがあります。博物館というと、展示を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、調査研究の成果は、講演会や出版物、展示室でのギャラリートーク、展示解説、体験型のワークショップや講習会など、様々な形で発信されます。こうした展示をはじめとする情報発信活動は、博物館の機能としては教育普及事業に位置付けられますが、最近では、その活動は博物館の中だけにとどまらず、インターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などのオンライン環境とICT技術を活用して、施設に来ることのできない人々に向けて情報を発信したり、新しい鑑賞方法や相互の交流を生み出したりするなどの取組みが行われています。

展示・教育

⑥博物館の活動の広がり

(校外学習、生涯学習、地域活動)

博物館は、地域に暮らす人々の学習や
楽しみの場としても重要です。
古文書講座や自然観察、天文教室、
生き物との触れ合い学習など、
博物館の特色を生かした市民の生涯学習を
支援する取組みが行われています。
博物館は、こどもから大人まで
多様な世代の人々が利用できる場です。
昭和時代の生活資料を利用して高齢の人が
当時を思い出すことで老化を防ぐ回想法やそうした場で、
高齢の方とこども、孫の世代が共に語り合う多世代交流としても有効で、
地域の人々が集まり交流する場として活用する取組みが進みつつあります。

今までもよく行われてきた学校教育との連携も、
団体での施設見学だけでなく
少人数でのグループ学習や博物館が学校に出向いての出前授業など、
学校での学習指導要領と連動した取組みも進んでいます。

また、近年では市民と連携した活動を通じて
博物館や博物館資料の価値を高めていく
価値共創の視点も大切になってきています。
市民との協働によって
博物館の活動を広げていくとともに
市民の創造的な活動を促進することで
新たな価値の創出やイノベーションを生み出すことが期待されています。
さまざまな障がいを持つ人が博物館を自由に利用できる環境を作ることも重要です。
博物館に集められた貴重な資料や情報を、
すべての人が利用できるようにする努力が進められています。
博物館にある地域の財産は、その価値をしっかりと発信することで
人々の地域への誇りや愛着を深めるだけでなく、
その土地や地方の魅力を外に発信し、観光で訪れる人々にも感動を与え、
地域の経済や振興に役立つ取組みが進められています。

⑦博物館ではどんな人々が
働いているの?

(館長、学芸員、専門職員、
市民参加 など)

博物館には様々な人々が働いています。
それぞれが大切な役目を持っていて、
誰が欠けても博物館は機能しなくなります。
ここでは、博物館を支える人々の仕事を紹介しましょう。

館長

館長は博物館全体をまとめて事業や活動の方針を示し、リーダーシップを発揮して計画を進めていく司令塔です。また館長は、博物館の持続的な経営について設置者と協議し、運営に必要な財源の確保など、博物館のマネジメントの責任者としても重要な役割を担っています。

館長

学芸員(飼育員、解説員、
エデュケーター なども)

学芸員は、⑤で紹介した博物館のさまざまな仕事を担う専門的職員です。学芸員は、博物館の専門的職員として働くための資格とされ、養成課程のある大学等で決められた単位を取るなどすれば取得することができます。
博物館の種類によっては、飼育員、解説員や研究員などと呼ばれたりします。
最近では博物館での教育を担当するエデュケーターや資料の保存や修復をするコンサベーターなど、専門の仕事をする人がいる博物館も増えてきましたが、多くの博物館では、少人数の学芸員が博物館に関するあらゆる仕事をこなしながら、その活動を支えています。

学芸員(飼育員、解説員、エデュケーターなども)

運営や設備を
支える職員

博物館も、他の組織と同様に、館長や学芸員だけでは成り立ちません。
組織運営に関する多種の事務を担う管理・総務・経理・庶務などをはじめとして、電気や空調設備、展示室や収蔵庫などさまざまな施設の運転や管理、清掃やセキュリティなの立場から大切な資料を守り、来館者が気持ちよく利用してもらえるように、多くの職員の仕事で支えられています。

運営や設備を支える職員

博物館を支える
市民たち(ボランティア、友の会、
研究グループ)

博物館を支えているのは職員だけではありません。たくさんの利用者や地域に暮す人々も博物館を支える主役です。
ボランティアは、それぞれの人々の経験や知識を活かして博物館の活動に参画することで新しい体験や知識を得るとともに、博物館の活動を支えてくれる大きな力です。
市民や利用者が主体的に研究会やサークルを作り、学芸員等と連携して博物館のテーマや所蔵する資料に関する勉強会等を行っている博物館もあります。こうした活動は参加する利用者自身の学びになるとともに、博物館にとっても学芸員だけでは進まない未整理の資料の整理や資料に関する調査やデータの収集等にとって大きな援助となります。
また、友の会やサポーター組織がある博物館では、その理念や活動に賛同して会員となり、博物館の活動に参加したり、寄付などによって運営を支えてくれる人々もいます。

博物館を支える市民たち(ボランティア、友の会、研究グループ)

このように博物館は、すべての人々に開かれた文化と教育のための施設です。
博物館で働く人だけでなく、多くの人々との協力・連携によって、
その役割を果たすことができます。

⑧博物館の歴史は?

世界の博物館、日本の博物館の
歴史の流れを概観する

世界の博物館の歴史

  • 英語ではミュージアム(Museum)
  • フランス語ではミュゼ(Musée) その語源はギリシア語の Μο σα=文芸の女神・ミューズに由来する
  • ミュージアムの語源はムセイオン(ムゼイオン) (古代ギリシア語: Μουσείον、ラテン文字表記: Mouseion)
    ムセイオン(ムゼイオン)は、4世紀ごろアレキサンドリアに作られた王立の研究所。「ミューズの聖地」という意味を持つ。図書館を併設した大規模な研究所で、多くの優秀な学者が集い、歴史や地理、哲学、宗教、文学から、地理や数学、物理学などの自然科学までを対象とする研究センター。
博物館の
黎明期
古代ギリシアのムセイオン:博物館の原点
  • 絵画等を集めた「ピナコテーク」(美術館の起源)
  • キリスト教の普及:教会・修道院の威信や格付けのためのコレクションの充実
博物館の
萌芽期
ルネサンス期・大航海時代
  • 王侯貴族・権威者たちのコレクション熱の高まり
  • 大航海時代を背景に、世界中から、珍奇なものを含めた美術、工芸、自然等に関するさまざまなモノが集められた
  • コレクションを保管する特別な部屋・施設
    ガッレリーア(イタリア、ギャラリーの語源)やヴンダーカンマ-(ドイツ、「驚異の部屋」)など
  • 後期ルネサンス期には、こうした施設を総称する言葉としてムセウムあるいはミュージアムと呼ばれ広まった
    こうした時代のコレクションは限られた人々の権威や富の象徴だった
博物館の
発展期
中世~近代: コレクション・保存施設の市民への公開
  • 絶対王政終焉〜市民の台頭~産業革命~帝国主義と植民地

ウフィツィ美術館
(イタリアのメディチ家の
コレクション 1769年開館)

ルーヴル美術館
(フランス王室の
コレクション
1793年開館)など

博物館の公共性、
社会的役割の認識
(近代的博物館の萌芽)

博物館の
分化・専門化
科学技術博物館、自然史博物館 など
  • ロンドン自然史博物館(大英博物館から分化 1881年開館)など
19世紀以降
アメリカ合衆国はじめ、各国で博物館が作られる
  • スミソニアン(1846年開館)、メトロポリタン美術館(1872年開館)
20世紀後半
以降
ヨーロッパ中心の博物館像からの脱却・多様化
  • 先住民族文化への注目
  • アジア、中南米、アフリカ等の博物館が躍進
  • 博物館には人類社会や文化の持続的発展に寄与する役割が期待されている

日本の博物館の歴史

黎明期
正倉院:1300年前の文化財を今に伝える「世界に誇る収蔵庫」
  • 保存の重要性⇔風入れ(保存と活用の両立)
  • 環境に脆弱な日本の文化財=今日に引継がれる知恵
皇族、貴族、武家、寺社等のコレクション:蔵、絵馬堂、宝物殿
コレクションは一部の権威者の閉ざされたものだった
宝物の公開・
博覧会的発想の
展開期
室町~江戸:コレクションの公開が進む
  • 会所(公家や武家の遊興の場)での美術品等の展示
  • 開帳:仏像の特別公開(江戸や大阪での出張展=出開帳)
    庶民の娯楽としての展覧会/寺社の収入源
近代的博物館
への
発展期
幕末・明治:殖産興業推進の啓蒙、実物教育の展開
  • 物産会、博覧会:近代化の窓口/博物館への発展
  • 「博物館」という言葉:万延元年(1860)に渡米した使節団の通訳が「当所博物館ニ到リ」と記したのが最初とされる
  • 慶応2(1866)年、福沢諭吉が刊行した『西洋事情」により一般に広まる
明治~大正:近代博物館の発展
  • 明治4(1871)年に設置された文部省に「博物局」が置かれる
  • 同年「古器旧物保存方」の太政官布告(廃仏毀釈への対応)
  • 明治5(1872)年 湯島聖堂で博覧会開催、東京国立博物館の誕生
  • 明治6(1873)年 ウイーン万国博覧会開催
  • 明治10(1877)年 教育博物館設置(国立科学博物館)
  • 私立の専門博物館の誕生:
    靖国神社遊就館(明治15(1882)年)など
昭和3(1928)年 
博物館事業促進会
(日本博物館協会の前身)
設立
  • 郷土博物館、私立美術館の発展
昭和25(1950)年 
文化財保護法制定
(法隆寺の火災を
きっかけに制定)
昭和26(1951)年 
博物館法制定
(博物館数 国立33,
公立71, 私立97)
昭和40(1965)年~ 
公立博物館の急増:
明治百年、
市町村制百年の記念事業
各地に博物館が
作られる 
多彩な私立・
企業博物館も誕生
平成~ 
博物館新設のペースは減少
平成27(2015)年 
約5700館
博物館の
運営形態の
多様化
国の行財政改革の博物館政策への影響
バブル崩壊、リーマンショック等 経済情勢の影響
国立博物館の
独立行政法人化
(平成13(2001)年~)
公立博物館への
指定管理者制度の導入
(平成15(2003)年~)
公益法人改革による
私立博物館の再編
(平成20(2008)年~)
地方独立行政法人による
公立博物館運営
(平成26(2014)年~)
博物館の
社会的役割の
多様化
観光、国際交流、福祉や産業への寄与、
地域振興、地域課題への対応、SDG’s など

今、博物館は、
社会教育・生涯学習とともに、
地域経済への貢献等、新たな役割も
期待されています。

⑨博物館は誰のもの

博物館が集めて、調査研究し未来に受けつごうとしている
資料や情報は誰のものでしょう?
それは、博物館のものでもなく、働いている人のものでもなく、
すべての人々の大切な財産です。
すべての人が、自由に博物館とその資料を利用する権利を持っています。
私たちはその権利を守りながら、大切な財産を未来に伝えるために、
一人ひとりが博物館を支える役割を持っていること、
博物館とそこで保存し活用されている資料を守っていくこと、
博物館を理解して、その活動を支える環境をつくっていくことの
大切さを知ってほしいと願っています。