成り立ち

昭和26(1951)年、博物館法が制定されたのは、戦後の復興のなかで、経済的発展だけでなく文化的にも豊かなくらしが必要とされはじめた頃でした。
博物館法が制定される2年前の昭和24(1949)年には社会教育法が、翌25年には図書館法が制定され、公民館と図書館の設置や運営について法的な位置づけが与えられた中、こうした施設と同じく、社会教育のための機関として役割を果たすことが期待されていた「博物館」について定める法律の制定が待たれていました。
その当時、全国に博物館はまだ200館程しかなく、これから各地で博物館が設置されようとする中、設置と運営の在り方を示すことで博物館の機能の整備と充実を図るために、博物館法は制定されました。

法律の目的

社会教育法の中では、博物館は「社会教育のための機関」の一つに位置付けられています。
これを踏まえ、博物館法は「社会教育法の精神に基づき」定めるものと明記し、博物館の健全な発達を図ることで、国民の教育、学術及び文化の発展に寄与することを目的としました。
令和4(2022)年の法改正では、社会教育法とともに、平成29(2017)年に制定された文化芸術基本法の精神にも基づくと改められました。

博物館の定義と登録制度

博物館法における「博物館」は、歴史資料や美術品や自然史資料、動植物など、資料の種類に関わらず、資料の収集・保管(育成)、展示、資料についての調査研究、教育普及活動やレクリエーションに資するために必要な事業等を行うことを目的とする機関であり、法の規定による「登録を受けたもの」と定義されています。

登録は、博物館法制定以来、都道府県及び指定都市の教育委員会が行うこととなっており、登録を受けるためには教育委員会に申請をした上で、

  1. 設置者が地方公共団体又は財団・社団法人、宗教法人、日本赤十字社、日本放送協会(NHK)のいずれかである
  2. 目的を達成するために必要な博物館資料がある
  3. 目的を達成するために必要な学芸員その他の職員を有する
  4. 目的を達成するために必要な建物および土地がある
  5. 1年を通じて150日以上開館する

といった要件を備えているかの審査を受けることとなっていました。

令和4(2022)年の改正法では、⓪の設置者の要件をなくし、国と独立行政法人以外のあらゆる法人が登録を受けられることになりました。さらに、博物館活動の質や体制等について実質的な審査を行う方向で改められ、下記の通り、大きく新しい要件が規定されることとなりました。

  1. 国と独立行政法人以外のあらゆる法人
  2. 博物館資料の収集、保管及び展示ならびに博物館資料に関する調査研究を行う体制が基準に適合する
  3. 学芸員やそのほかの職員の配置が基準に適合する
  4. 施設および設備が基準に適合する
  5. 1年を通じて150日以上開館する

国や独立行政法人が設置する施設、また、現在の制度では企業や学校法人が設置する施設については、法の規定上、登録を受けられないため、博物館法上の博物館の定義には当てはまりませんが、博物館法(改正前の第二十九条)では、そうした施設も法律上の位置づけが得られるように「博物館に相当する施設」への指定が受けられる制度が措置されています。
令和4(2022)年の法改正で、登録の要件が見直されるため、この指定の要件についても合わせて見直されました。

博物館の事業

博物館法で博物館が行うとされている事業について、第3条で規定しています。これらは「おおむね」行うものとされており、すべての事業を実施しなければ博物館ではない、という書き方にはなっていませんが、博物館の目的を達成するために必要な事業として列挙されています。

改正博物館法で列挙される12の事業

  1. 実物、標本、模写、模型、文献、図表、写真、フィルム、レコード等の博物館資料を豊富に収集し、保管し、及び展示すること。
  2. 分館を設置し、又は博物館資料を当該博物館外で展示すること。
  3. 博物館資料に係る電磁的記録を作成し、公開すること。
  4. 一般公衆に対して、博物館資料の利用に関し必要な説明、助言、指導等を行い、又は研究室、実験室、工作室、図書室等を設置してこれを利用させること。
  5. 博物館資料に関する専門的、技術的な調査研究を行うこと。
  6. 博物館資料の保管及び展示等に関する技術的研究を行うこと。
  7. 博物館資料に関する案内書、解説書、目録、図録、年報、調査研究の報告書等を作成し、及び頒布すること。
  8. 博物館資料に関する講演会、講習会、映写会、研究会等を主催し、及びその開催を援助すること。
  9. 当該博物館の所在地又はその周辺にある文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)の適用を受ける文化財について、解説書又は目録を作成する等一般公衆の当該文化財の利用の便を図ること。
  10. 社会教育における学習の機会を利用して行つた学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し、及びその提供を奨励すること。
  11. 学芸員やそのほか博物館の事業に従事する人材の養成、及び研修を行うこと。
  12. 学校、図書館、研究所、公民館等の教育、学術又は文化に関する諸施設と協力し、その活動を援助すること。

令和4(2022)年の法改正では、こうした事業に加え、博物館と利用者の現代的なあり方に対応するために、デジタルアーカイブの作成と公開を追加し、博物館で働く人材の養成や研修の実施も加わりました。
また、こうした事業に加え、博物館相互の連携協力や、博物館以外の各種団体や施設との連携協力によって教育や学術及び文化の振興を図ること、また文化観光や国際交流、福祉や産業など多様な分野での活動を推進することで、地域の活力向上の寄与に努めることとされています。

博物館の職員と学芸員制度

博物館法では、博物館には館長と学芸員を配置することとし、登録を受ける館は必ず館長と学芸員を置くことになっています。
博物館で「学芸員」として働くためには資格が必要です。資格を取得するためにはいくつかの要件があり、例えば、現在国内の約300校の大学で開講されている「博物館に関する科目」の単位を修得すれば、大学卒業時に、博物館で学芸員として働く資格を得ることができます。
このほかにも一定の要件を満たし、文化庁が行う試験や審査により認定を受けることで、学芸員として働く資格を得ることも可能です。
博物館法では、館長と学芸員のほかに、学芸員の職務を助ける学芸員補とその他の職員についても、任意で置くことができるとされています。
学芸員補にも資格の要件があり、現行の制度では大学に入学できる者なら誰でも学芸補になれることになっていましたが、令和4(2022)年の改正で、この要件を見直しています。
また、博物館法では、国と都道府県の教育委員会の役割として、博物館で専門性のある職務に従事する学芸員と学芸員補に対して、資質の向上のための研修を行うこととしてきましたが、令和4(2022)年の改正で、この研修の対象として館長やそのほかの職員も含めるように改められました。

博物館の望ましい基準

博物館法では、博物館を「登録を受けたもの」と定義して、登録要件を満たす一定の施設に対して法的に位置づけを与えていますが、法律上の登録の要件そのものは、博物館として備えておくべき基本的な要件を示すものとなっています。
博物館法では、博物館の健全な発達を促すために、登録要件とは別に、博物館の設置・運営についての「望ましい基準」を定めて公表することにしています。
令和4(2022)年の改正により、登録要件について見直しが図られ、また、博物館の事業の在り方についても改められました。これらの望ましい基準については、改正後の博物館法に沿ったより現代的な内容へと見直しを図っていきます。